金融機関が考える貸出リスクについて

金融豆知識
はじめに

この記事では、主に「融資業務」を取り扱う金融機関が考える「貸出リスク」について触れていきたいと思います。

私も法人、個人問わず様々な融資案件を審査しましたが、結構シンプルに判断しているケースが多かったです。言い換えれば、ある程度決まった目線が定められています。そこを遵守していれば「貸出リスク」は最小化できますといったロジックを会社が規程しておりそれを機械的に教え込まれていくからです。(AIでいいってことですね。)ですから正直あまり目利き力を求められる局面は多くないということです。(この数少ない目利き力を求められる機会でバンカーとしての能力の差が露見するんですがね。)

この記事が、どのような視点で「貸出リスク」を金融機関が評価しているのかということを借り手側の方にとって少しでも参考になれば幸甚です。

「貸出リスク」の種類

金融機関は主に下記に列記する貸出リスクを評価します。評価の過程の中で、「貸す」か「貸さない」かが判断され、「貸す」となった場合には、「貸出金利」と「返済期間」および「貸出形態」が決められていくことになります。(もちろんこの3要素がパッケージ化されている融資商品もあり、その場合は「貸す」か「貸さない」かの判断で完結します。)

  1. 信用リスク
  2. 業績リスク
  3. 市場リスク
  4. 担保リスク
  5. 法律・規制リスク
  6. 政治リスク
  7. 業種リスク

では上記に列記した7つの貸出リスクについてそれぞれ説明していきます。

1.信用リスク(Credit Risk)

借り手が貸し手に対する債務を返済できない可能性があるリスクです。金融機関が貸出を行う際に最も重要なリスクの一つと考えられています。信用リスクはフォアキャスティング思考の「結果主義」ですので、今までの実績が全てです。ですので創業したての企業などはこの信用リスクの視点だけで言えば実績がありませんので、リスク量はMAXと言えます。 

信用リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 返済能力: 借り手の返済能力は、収入やキャッシュフローなどによって評価されます。収入が安定しているか、返済に充てる余裕があるかなどが検討されます。
  • 信用履歴: 借り手の過去の債務返済履歴は、信用評価に大きな影響を与えます。過去に債務不履行や遅延がある場合、新たな貸し付けが検討される際に影響を及ぼす可能性があります。
  • 借り入れ額: 借り手が多額の借り入れを行う場合、返済負担が増加し、返済能力に影響を及ぼす可能性があります。
  • 業績: 借り手の事業やプロジェクトの業績が弱化すると、返済能力が低下する可能性があります。事業の健全性や将来の収益性も評価されます。
2.業績リスク(Business Performance Risk)

企業や組織の業績が予想よりも悪化する可能性に起因するリスクです。業績リスクは経済や市場の変動、競争、内外部の要因などによって引き起こされることがあり、企業の収益性や成長性に影響を及ぼす可能性があります。

業績リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 経済の変動: 経済の景気サイクルによって、企業の業績は変動する可能性があります。景気後退期には売上や収益が減少することが考えられます。
  • 市場の変化: 顧客の需要や市場のトレンドが急激に変わる場合、企業は適切に対応しなければならず、業績に影響を及ぼす可能性があります。
  • 競争: 競合他社の活動や新規参入によって、企業の市場シェアや価格競争力が変動することがあります。
  • 技術の進化: 新たな技術の導入や既存技術の陳腐化により、業界全体の構造や需要が変わる可能性があります。
  • 法律と規制の変更: 政府や規制当局による法律や規制の変更が、企業の事業モデルや利益に影響を及ぼす可能性があります。
3.市場リスク(Market Risk)

金融業界において投資ポートフォリオや資産価値に対する、市場の変動によるリスクを指します。市場リスクは金融商品の価格変動や金利の変動など、市場の不確実性に起因するリスク要因に関連しています。

市場リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 価格変動リスク: 株式、債券、商品などの金融商品の価格は市場の需給や投資家の感情によって変動します。価格の変動が投資ポートフォリオに影響を及ぼす可能性があります。
  • 金利リスク: 金利の変動は、債券の価格や投資家のリターンに影響を与える可能性があります。一般的に、金利が上昇すると債券価格が下落し、逆に金利が低下すると債券価格が上昇します。
  • 為替リスク: 外国為替市場の変動により、異なる通貨で保有されている資産の価値が影響を受ける可能性があります。
  • 商品価格の変動: 原油、金、穀物などの商品価格の変動は、資産価値や企業の業績に影響を与える可能性があります。
4.担保リスク(Collateral Risk)

提供される担保の価値が減少することによって、貸し手(債権者:金融機関)に損失をもたらすリスクです。担保は、債務不履行時に債権者が回収するための資産を指します。担保リスクは、提供された担保の価値が減少した場合に債権回収が困難となり、損失を被る可能性がある点で重要なリスク要因です。

担保リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 担保の価格変動: 提供された担保の価格が変動することによって、担保の価値が減少する可能性があります。不動産、証券、商品などの担保がこれに該当します。
  • 市場の変動: 担保として提供される資産が市場の変動に影響を受ける場合、担保の価値が減少する可能性があります。
  • リスクヘッジ: 担保の価値を保護するためのヘッジ取引が十分に行われていない場合、担保リスクが高まる可能性があります。
5.法律・規制リスク(Legal and Regulatory Risk)

企業や個人が法律や規制に違反することによって生じるリスクを指します。これは法的な制約や規則に従わないことによって、法的な制裁や財政的損失、評判の損失などが生じる可能性があるリスクです。

法律・規制リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 法律違反: 法的な規定や法律に違反する行為は、法的な制裁を受ける可能性があります。税金の未払い、環境規制の違反、消費者保護法の違反などが該当します。
  • 規制変更: 政府や規制当局が規制を変更した場合、既存のビジネスモデルや活動が影響を受ける可能性があります。
  • 国際的な規制: グローバルなビジネス展開を行う場合、異なる国や地域の法律・規制に適合する必要があります。
6.政治リスク(Political Risk)

国内外の政治的な出来事や変動が、企業や投資家に影響を及ぼす可能性があるリスクを指します。政治的な不安定さ、法律や規制の変更、政府の対外政策などが要因となり、企業の収益性や投資の安全性に影響を与えることがあります。

政治リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • 政府の政策変更: 政府の政策変更が企業や投資家に影響を与えることがあります。税制の変更や規制の厳格化などが該当します。
  • 政治的な不安定さ: 政治的な混乱や内戦、政治的な暴力などが発生すると、ビジネス環境が不安定になる可能性があります。
  • 外交関係: 国際的な関係が悪化することによって、国際ビジネスや国境越えの取引に影響が出ることがあります。
  • 為替制度の変更: 為替制度の変更が通貨価値に影響を与え、国際的な取引に影響を及ぼす可能性があります。
7.業種リスク(Industry Risk)

特定の業界やセクターに関連するリスク要因を指します。異なる業界はそれぞれ異なる経済的、技術的、規制上の要因によって影響を受けるため、業界ごとに独自のリスクが存在します。

業種リスクの要因を紐解くと以下の通りです。

  • サイクリカル性: 特定の業界は景気サイクルに影響を受けやすく、景気の変動によって業績が大きく変動することがあります。例えば、自動車産業や不動産業は景気の影響を受けやすい業界です。
  • 技術変化: 技術の進化が早い業界では、新たな技術の導入や既存技術の陳腐化によるリスクがあります。例えば、情報技術や通信業はこのリスクに直面しやすいです。
  • 規制と法律: 特定の業界は規制や法律の変更に敏感であり、これによって業績や事業モデルに影響を受ける可能性があります。例えば、医療業界や金融業界は規制リスクが高い場合があります。
  • 市場の変化: 消費者の需要や市場のトレンドの変化が、特定の業界に影響を与える可能性があります。例えば、食品産業やファッション産業は流行の変化に敏感です。
さいごに

それぞれの「リスク」は各論として分離しているわけではなく、相互に重なり合っている点が多いです。また、借り手側の努力でどうにかなる点は正直ほとんどない(良い決算を継続するくらい)と言えます。また所属業種の盛衰は如何ともしがたいところであり、例えば今までの標準的な基準であった製品を取り扱っている企業が破壊的なイノベーションが巻き起こった影響で急激に市場における需要を失うこともあります。(レンタルビデオ店はサブスク動画配信サービスにあっという間に淘汰されましたよね)

ただ

今回の記事に書いた各種リスクについて金融機関が1つ1つ融資案件毎に丁寧に検証して貸出の可否を判断しているのかというと

そのようなことはありません。

100%充足できる担保提供があったり、保証機関の第三者保証を受けれる見込みがあるのであれば、正直、過去に破産していたとしても、そのときの債務の清算が法的に済んでいる(求償債務が無い状態)のであれば、反社会的勢力の方でない限り、外国人の方(日本に永住権があればですが)でも貸してくれるのが今の金融機関だと思います。少なくても私の勤務している会社は貸しています。

今回の記事が少しでも皆さんのお役に立てば幸甚です。執筆:michidora2